今週のお題「遠くへ行きたい」
ふづきです。
「家で過ごす」という言葉を使うことが日常となり、習慣になりつつある今日。スマホやテレビ、窓の外からのアナウンスが無条件に浴びせる言葉の雨。まるで梅雨時のジメジメ感のなかを汗だくのパーカーで過ごしているようです。巣籠り生活が、楽なようで楽ではない。内(家)に向けての価値観が、これを機に変わったという人も多いことと思います。
少しずつ、良い方向へと風向きが変わっているのか。ひとり一人の努力と我慢の結晶が、砕けながらも線を繋ぎ、一歩、一歩、進んでいる報道を目の当たりにしました。安堵か不安か。ウイルスの与えた試練は、各々の考え方や生活すること全てにおいて、立ち止まって考える時間を設けてくれたのだろうと思っています。
自分と向き合うこと。家族や大切な人との時間を見直すこと。
ピンチはチャンスと言うように、自分にとっては大切な嫁のこと、夫婦の時間をゆっくりと見つめ直す、良い機会になったと感じています。
はじめに
今となっては、家以外の外出先が遠くに感じます。毎週のように旅へ出ていた頃が、学生時代を懐かしむような埃を被ったアルバムのよう。嫁のさつきとは、旅に出られるようになったらどこへ行きたいか、ふたりとも場所は違えど「温泉に行きたい」気持ちは同じ。こんな話をするだけでワクワクできるなんて、これも自粛の産物なのかなと思っています。
自分の行きたいところはどこなんだろう…。
ふと、スマホを取り出し、アルバムを眺めました。
何度も見返していた写真の中から、なぜか浮かび上がるように目に留まった一枚の写真。
あれからもう、8年も経つのか…。
どんなお湯だったか…。また行ってみたいな。
今ではとても遠い、福島県にある野地(のじ)温泉。
震災と復興と
あの「3.11」以来、福島へ足を運ぶことが増えた気がします。
嫁のさつきは「何かできることを…ボランティアに行く!」と、直後から言っていたことを今も覚えています。あの時、行かせていたら。復興の手助けになれた…けれど、もし何かあったら…。複雑な気持ちで、引き止めた自分は正しかったのか、今でもわからずにいます。
少しでも力になれればと、デコボコの道路を走り、温泉地へ。土湯温泉、高湯温泉、岳温泉、赤湯温泉、野地温泉…、めぐりに巡りました。あの有名なハワイアンズまでの道が閉ざされていたことには衝撃でした。
復興が進み、再出発という矢先。一難去ってまた一難。
「うつくしま 福島」と呼ばれたように、自然豊かな土地柄で、良質な温泉も多く湧き出でています。民謡でも有名な会津磐梯山や、スノースポーツを楽しまれる方は良く知る猪苗代。パッと思い付くだけでも、良いイメージしかありません。今いるところからちょっと遠いことがネックなことだけでしょうか。
行けることなら温泉旅で支援したい。これからもお世話になるであろう、大好物の温泉地が守られていって欲しいと願っています。
雪の壁
2012年の4月、市街地では春めいて暖かい陽気に心が躍らされます。されど、旅先の温泉は山合にあることが多く、つまりは標高が高いため、小雪が舞っている季節のままです。時を遡るかのように車を走らせ、嫁と夫婦旅が始まります。
春の澄んだ空に、飛行機雲、そして雪化粧した山々。有名なパティシエでもいるのかなと思わせるほど、当たり前のように目の前に並んで魅せてきます。この時はまだ知る由もありませんでした。優雅に景色を楽しむ余裕があったのですから。
温泉めぐりをしながら、次の温泉地を探して、
さつき「ここ、行ってみようよ!」
ふづき「どこ?」
さつき「やじ?のじ?野地温泉!スゴイみたいだよ!」
ふづき「じゃあ、行ってみようか!」
ふづき「…確かに、スゴイね。」
磐梯吾妻スカイラインがちょうど開通したようで、道路を覆い隠すかのように雪の壁がそびえ立っています。ホント、旅をしていると、季節問わずな道が多いので、スノータイヤを履いてて良かったと思いました。自然とハンドルを握る手にじんわり汗をかきますが、隣のさつきは写真やらムービー撮りながらテンションMAX!「見てみて!スゴイよ!」と言われても、両手はガッシリ、視線は真正面に釘付け状態。運転席と助手席の温度差が、雪の壁程あったことは言うまでもありません。
さつき「ねぇ!見て!何か噴き出してるよ!スゴくない!?」
ふづき「ああ、スゴいね。路面が凍り付いてるよ。」
野地温泉
野地、新野地、鷲倉、幕川などの土湯峠温泉郷のひとつ。標高1200Mに位置すると聞くと、先ほどの雪の壁も納得がいきますね。
ちなみに土湯温泉は、遠刈田、鳴子と共に三大こけし発祥の地と呼ばれているそう。もし見かけたら、表情を見て下さい。その土地土地で異なった表情を見せていることに気付くと面白いですよ♪
野地温泉ホテル
白い風景ばかりの道路を走り抜け、手汗がびっしょりになった頃、ようやく到着しました。
立派な佇まい、ホテルと言うだけあって自分たちが良く行く、いわゆる「共同浴場」のような雰囲気ではなさそう。さつきの言っていた「スゴイみたいだよ!」とは、どうなんだろうかと、期待を胸にいざ入館します。
野地温泉公式サイトはこちらになります。
http://www.nojionsen.com/
地図はこちらから。
※Googleマップ
日帰り温泉の詳細
源泉名 野地温泉2号源泉
場所 福島県福島市土湯温泉町字鷲倉山1-2
電話 0242-64-3031
定休日 要確認
営業時間 10:40~13:00(入浴終了14:00)
料金 大人800円 小人400円(4才から小学生まで)
泉質 単純硫黄温泉
泉温 源泉53.4℃
pH 5.9
効能 アトピー性皮膚炎、慢性湿疹、抹消循環障害など
種類 男女別大浴場、男女別露天風呂(サウナは現在利用中止)
その他 源泉かけ流し
※野地温泉ホテル公式サイトにて・感染拡大防止策・お客様へのお願い・入館時のお願いなど載せてあります。
足を運ぶ際には必ず目を通してから伺いますよう、お願いします。自粛期間中や、政府からの方針が示されない最中での県を跨いでの移動は、自分たちだけでなく温泉地への負担や不安を広めてしまうことにも繋がるので、今しばらく我慢の時間が必要になりそうです。
日帰り温泉は、2020年6月1日より営業再開される予定ですが、普段と異なる営業時間となることが予想されますので、伺う際には現地へ確認をお願いします。
野地温泉公式サイトはこちらから。
http://www.nojionsen.com/
(2020年5月現在)
千寿の湯
露天風呂や他の内湯にも入りたかったのですが、帰路の時間もあり、一番魅力的な浴槽を選ぶことにしました。それが、内湯の「千寿の湯」です。
まさにこれ。温泉の理想形がここにありました。
浴室に入る前から漂う、まろやかな硫黄臭。写真を見てもわかるくらい、透明度のなさが、乳白色の浮遊物(湯花)がとても多いことを物語っています。なぜ、枠が3つに分かれているのか。源泉の湯口の方から、熱い(体感44℃)→適温(体感42℃)→温い(体感40℃)。ザックリ言うとそのような造りになっています。湯船の中で繋がっているため、水を加えずとも温度調節ができているということになります。源泉かけ流し好きには堪らないですね!新鮮な熱湯を満喫するのも良し、真ん中でヒノキの香りや浴室の作りを眺めるのも良し、温湯で身体中に温泉を感じるのも良し。ヒノキと温泉の硫黄の香りは、身体も心も癒してくれるアロマのようです。湯上りは、お湯が濃い割には意外とサッパリ。外から差し込む陽射しに、身体から昇る湯気が幻想的に見えるのも、何だか乙な感じですね。
他にも入りたかった気持ちは、この硫黄の匂いと雰囲気に、なぜだか満たされた気持ちに変わっていました。満足です。
おわりに
アルバムを開くと沢山の写真があり、それ以上の思い出が映っています。楽しかった、また行きたい、美味しかった、残念だった等々。そんな中に、震災があり、前を向く人たちがいます。追い打ちをかけるような出来事があっても、それでも前を向き続けている場所があります。
幾度も振り返っても、ただの1枚でしかなかった写真。
今、こうやって振り返り、しっかりと見つめ直すきっかけを作ったのは、きっと、こんな世の中の今だからなんだと思います。
家に籠る時間が長くなるにつれて、温泉のことを思い考える意欲が薄れてしまったのは事実です。思うモノの優先順位が変わってしまっていたこと、その時その時で変わるのは仕方のないことかもしれません。けれど、心のどこかですきま風が吹いていたことに、気付いていないフリをしていたのも事実です。
きっかけは何であれ、やっぱり、「好きなものは好き」と、はっきり言った方が気持ちが良いし、「今は無理だから」と頭ごなしに決めつけ、考えないようにするのは心に良くないんだなと、気付きました。今できること、好きな温泉を語り合い、また行きたいと思うこと。行ける時が来たら、全力で現地へ向かい、全身全霊でお湯を満喫すること。何よりも、体力を落とさず、健康でいることが一番大事なことだと思っています。
今は、様々な理由から遠く感じているものを、モノの距離ではなくて、心の距離として、近くに感じることができれば、今を少しでも楽に楽しく出来るのかなと思いました。
近い将来、直に復興を感じる時が来るまで。
写真を眺めながら、あの硫黄臭漂う雰囲気を、鼻先に感じながら。
福島県には良い温泉が沢山あります。終息後に、ぜひ立ち寄ってみて下さい。
www.fuzuki-satuki.com