ふづきです。
カーテンが捲れた先に見える空が白く淡く染まり始める頃、顔にそっと吹きかける微風が思っていたそれよりも冷たく感じる。
夏の暑さに馴れた身体は、湿り気のない風を感じると違和感を覚え、いつもとは違う何かを肌で感じる。風物詩は、たった数度、僅か数パーセントの違いを嗅ぎ分け、舞台の主役を入れ替わる。誰に教わったのか、それとも感性なのか。当たり前のようにこなす姿を思うと、自分の役割とは何なのかと、ふと、真面目に考えてしまう瞬間が訪れる。馬鹿の一つ覚えのように、黙々と掃除を始め、夏バテ気味の観葉植物に水をやり、湿気った身体に目一杯陽射しを浴びる。…嫁が目覚めた数時間後の遅いルーティーン。毎日呆れられながらも、寄り添ってくれる嫁と、勝手ながらも自分なりのスタンスで嫁を支えているつもりの自分。
毎日が当たり前に感じられるのは、嫁という存在があるから。
いつもと同じ24時間という、昨日と全く同じリズムで時を刻んでいるはずなのに、同じ相手と交わす会話ひとつひとつ、その温度、その気温、その景色が移り変わっていっても、きっと、嫁の作る朝食をまた食べたいと思ってしまうんだろうなと。微風が陽射しに誘われ熱風に変わる頃、何でもない昼下がりを当たり前のように過ごしている。
ベタな幸せを、明日も明後日も、ここに忘れずにいるために。
はじめに
〈2020年8月初旬〉
今や、とても有名な観光地となってしまったことにより、秘境感や秘湯感が薄れてしまった感じは正直否めません。それでも、ここへ来る価値は存分にある。いや、ここへ来ることが温泉旅の本当のスタートなのかもしれないと。来る前まで思っていましたし、来た後にもそう感じています。
そう、ここは世界自然遺産知床。その一番の目的地である『カムイワッカ湯の滝』。
クイズ番組?でしかお目に掛かれなかった聖地です。
この記事を書けることが、本当に嬉しいことだと思っています。
旅の拠点
しれとこ村で泊まり、旅の疲れを癒し、
そして目指す先への鋭気を養うことが出来ました。
ここの温泉は素晴らしかった。
何度も言いますが、流れる源泉は透明なのに、湯船に入ると濃い黄土色。濃いのにくどくない湯触り。浴室内もお湯も熱い(あつ湯は体感44℃程、ぬる湯は42℃程、浴室内は風が抜けず低温サウナ状態)ので、水分補給と休憩のインターバルはしっかり取った方が良い。湯上りは、塩化物泉の割にはそこまでベタつかず、保温効果はしっかりあり、しっとり美肌効果がありそうです。
しれとこ村公式サイト
https://www.shiretoko-mura.jp/
いざ、出陣
…と、その前に。
カムイワッカへは、マイカー規制期間があります。
〈2020年〉
6月1日~8月8日、
8月16日~10月31日は自由利用期間
(マイカー、自転車、徒歩のみ通行可。バスはなし。)
8月9日~8月15日はマイカー規制期間
(自転車、徒歩は通行可。シャトルバスあり。)
知床五湖を抜けて向かいますが、パンフレットの注意書きにもあるように、とても狭い!デコボコの酷い砂利道!悪路と言っても過言ではないくらいの道となっていますので、マイカーで向かう場合にはとても気を付けた方が良いと思います。砂利の山道ですが、ガードレールがないところもあり、ギリギリすれ違いができる程度の道幅となっていますので、小さめの車の方が安心かなと思いました。
今回は、観光ガイドさんの送迎付きだったので余裕でいられましたが、もし自分の運転だとしたら…。着くまでに疲れ切っていたことかもしれません。苦笑。
動物たちの住処にお邪魔する形になるので、くれぐれもエサなどをあげたり刺激を与えたりしないように気を付けたいですね!
詳しくは、こちらを参照して下さい↓
カムイワッカ湯の滝|知床自然センター公式サイト
カムイワッカ湯の滝 地図
※出典:Googleマップ より
神の水
標高は400メートル、落差20メートルの渓流瀑である。知床半島のほぼ中央にある活火山の硫黄山を源流とするカムイワッカ川に掛かる。
川には温泉が流入し、連続する滝のそれぞれの滝壺が野趣溢れる天然の露天風呂となっており、野湯とも表現される。カムイワッカはアイヌ語のkamuy(神、または神のような崇高な存在の意)、wakka(水の意)であり、この川の温泉成分が強い硫黄成分を含むため有毒であり、生物が生息できない「魔の水」の意味と解釈されている。
※引用:カムイワッカ湯の滝 - Wikipediaより
神の水と呼ばれるほどの温泉に、未だかつて出逢ったことがないのでとても興奮しました。pH1.2の強酸性である秋田県の玉川温泉に入った時には、顔に掛けられないほどのヒリヒリ感を感じましたが、同じく強酸性(pH1.6~1.8)と言われるカムイワッカ湯の滝も猛者なのでしょうか。楽しみです♪
湯の滝を登る
案内板手前に20台ほど停められる駐車スペースが設けられていますが、当時は平日の午前11時。管理者と思われる車と、他1台しか停まっておらず空いていました。
今回はガイド付きなのでヒグマ対策も万全ですが、単独で向かう際には熊除けの鈴など対策を講じた方が良さそうです。また、足場の悪い斜面を登るので、長靴や踵付きのサンダルなど、歩きやすく滑らない、水の中でも脱げない靴が必須です。自分たちは、マリンシューズを用意しましたが、とても歩きやすくて安全でした。
駐車場から10分~15分程歩くことになります。
入浴される方は車で水着を着込んでおいて、ちょうど良い滝壺へ到着したら脱いで入る形を取るとスムーズだと思います。
ガイドさんは長靴、手袋の万全装備ですね。両手が塞がっていると転んだ時に危ないので、リュック系のバッグがオススメです。
まだただのゴツゴツした斜面ですが…。
歩き始めて数分で水の流れる音が聞こえ、
浅瀬を歩き始めます。
それにしても、綺麗な水ですね!
両手に汲んで飲めそうな、そんな透明度です。
何やら、ガイドさんから説明を受けている様子。上流に向かうごとに湯温が適温になっていくよう。現時点では水。酸性の強いお湯なので、敏感肌の人はヒリヒリしたりするので、水で洗い流したり、すぐに拭き取ったりした方が良いそう。自分たち夫婦は、硫黄や酸性泉好きなので、まったく問題なさそうです♪
下流の方はロープが張られ、立入禁止となっています。実際覗いてみると、急な斜面が続くので、確かに危険を感じました。
一の滝へ
登り始めて10分程でしょうか。
入浴スポットの一の滝に到着しました!
滝壺が浴槽になっているなんて、ワイルドですね♪
言われていた通り、30℃くらいの温水プール。仕方ない、ここで入ろうか…。と脱ごうとすると、ガイドさんが「上に行けばもう少し適温になると思いますよ!」と。ズボンを上げ、さらに上流を目指すことに。手を入れた感じは、ピリピリ感はあまり感じず、むしろ川という感覚を覚えました。とても澄んだ川だな~という。
改めて見ると、こんな大自然の中で、滝を登って歩いて、しかもその滝が温泉の滝で、そこに入ろうとしているなんて。温度よりも早く入りたい気持ちが勝ってしまいそうです。お湯を触った手を舐めてみると、確かに酸っぱい。大自然の中にいるためか、さほど硫黄臭は強く感じない。鼻が馴れてしまったのだろうか。
さらに上流へ
写真では伝わりづらいですが、結構な斜面を登っています。これ、下りの方がヤバいことをこの時点では気付いていませんでした。
足元から感じる湯気が、
先ほどより少し温かく感じる気がします。
しかし・・・
ガイドさん
「この先が適温なんだけどね。落石があってから立入禁止になっているけど、入れるように着手しているみたいだけど」
ふづき
「残念ですね」
確かに、大きな岩がゴロゴロしているのがわかります。それでも、来たからには入りたかった。次回の楽しみに取っておくことにします♪
酸性泉ならではのお楽しみ
ガイドさんから10円玉を渡されました。これで「う〇い棒」でも買えとでも言うのでしょうか?いや、そんなくだらない冗談は置いといて、お湯の中で擦ってみて下さいとのこと。
キラッキラ…とまではいきませんでしたが、いくらか輝きが増した気がしませんか?少しゴシゴシしただけで光るということは、一日漬けたらピカピカになったりするのでしょうか?一週間で釘が溶けると聞きましたが、見た目の純粋さと透明さに見惚れていたら溶けてしまいそうですね。
自然の偉大さに浸る
写真で見ると、だいぶ険しい道を歩いて来たんだなと。
自分で自分を褒めたくなります。
場所によっては大変危険なので、幾分緩やかのところで嫁とガイドさんに見守られながらの、恐る恐るのズルズルです。
一の滝もそうですが、ちょっとした滝壺はどこでも湯船です♪
開放感半端なく、ここに居ること自体が贅沢だと全身で感じました!
チョロチョロ温泉の流れる岩場は、ホント滑る。
マリンシューズ大活躍でしたが、ここは結構怖かったですね。
これだけ濁っているのは、ガイドさん曰く「レアケース」だそう。管理人さんが上の方でガサゴソと、かき混ぜた結果…。まさかの濁々。これもある意味貴重な一枚になりました♪
興奮していたせいか、「凄かった!」「酸っぱかった!」以外あまり覚えていないのが正直なところ。本当に嬉しくて、興奮して、ワクワクが止まりませんでした!例年だったら、数十人、それ以上の観光客でごった返している有名処だそう。それを、ほぼ貸切野天風呂状態で満喫できたこと。その気持ちを表現する言葉が見当たりません。
上流の方で入ったお湯でも30後半の温度、下流の大きい滝壺は30℃位。雨水?川の水?が混ざっているのか、ピリピリするような感覚はあまりなく、けれど温泉特有のヌメっとした纏わりつく感覚を身体が覚えています。温泉の質感にも大変興味がありましたが、それ以上に大迫力のロケーションに圧倒されまくりの時間は、とてつもなく早く過ぎ去っていきました。普段だったらこんな言葉で締めくくりたくありませんが、これは「ヤバい」です。
まとめ
いつか行きたいと、淡い夢を抱いていた頃から長い月日が経ち、その場所へ大切な人と共に足を運ぶことが出来たこと。その結果だけでも幸せを感じる。
温泉の概念を持っていなかったアイヌの人々は、ここを神の水(カムイワッカ)と崇めたほど。生物が生息できないことから魔の水とも呼ばれているそうだが、何がこれほど興奮を誘い、多くの人たちを虜にするのか。ふと考えてみても、この自然の偉大さしか思い当たらない。
観光地や温泉地に、立派な旅館や日帰り温泉施設があり、その土地土地の特色ある泉質やロケーションに時折魅了され、また行きたいと思いを馳せる。またそれとは似たようで異なり、限りなくありのままを頂ける。きっと、前日やその翌日は、違った顔を覗かせているに違いない。ものすごくピリピリさせる日もあるのだと思う。ただの川のような日だってあるかもしれない。けれど、それが良いし、それで良いんだと思う。誰がそう言ったわけでも教えてくれたわけでもなく、その景色と空気に圧倒され、温泉を満喫するはずが、10代の子供のようにはしゃいでしまったオッサン。
馬鹿の一つ覚えのように、温泉という定義の広さと奥深さに触れて、やっぱり温泉が好きなんだなと、ベタな言葉を吐いてしまう。
かつて「いつか」だった場所は「今」となり、
これからの温泉に対する興味と好奇心を、あの滝のようにありのままのふたりで紡いでいけたらと。
小さな流れが、大きな何かに変わると信じて。