ふづきです。
硫黄の香りに誘われて、
嫁と交わす言葉ひとつひとつが匂わす思い。
目に映るお湯の色は、想像よりも澄んでいて、
妙な違和感を心地良く感じる石油臭。
浸かった膝下から伝わる温もりが、
気付けば汗ばむ、陽気のせいと惑わす陽射し。
足取り軽く、握る手固く、
見上げる先と心の内は、
何故かいつも遮るもののない。
青い空と嫁と自分。
月岡温泉、湯と街並み巡り。
はじめに
無料の駐車場に車を停め、『あしゆ湯足美』で旅の疲れを癒す。
さぞかし綺麗なエメラルドグリーンのお湯かと期待するそれは、期待以上の透明さ。硫黄の香りに待てと言わんばかりの石油臭と、足にしっとりと纏わりつく油膜の衣は、全身浸からずとも満足させるポテンシャル。これを無料で、さらには主役級のおまけの芸妓となると、返って申し訳なさを感じてしまうくらいの、良い意味でのため息が零れます。
世の中には知らなかったことが、特別何かをするわけでもないのにそこら中にあり溢れていて、それに気付くか気付かないかで「日常という楽しさ」を増やし活かすことが出来ること。何だか、タダより高いものはないんだなと、これも良い意味で教えてもらえた気がしています。
月岡温泉
温泉街を巡る
日本各地の温泉、特にその土地に根差した共同浴場を巡るのが好きなふたり。お湯のみならず、人柄や風情感じる街並みを歩くのも楽しみのひとつ。混み合う都会の喧騒が苦手で(そこの夜景は魅力的ですが)、ガラガラと閑散とした、ありのままの日常のような温泉街を静かにのんびりと歩ける贅沢を、今は新たな楽しみとしているのかもしれません。貸し切りの世界のようで、思い思いに耽りながら。
視線を上げると、軒先には色とりどりに吊るしてある飾り。暗くなると明かりが灯るのでしょうか。今や当たり前のLEDの光量よりも、豆電球のようなほんわかな明るさの方が落ち着いて良かったりします。華やかさと相反する地味さ、言葉としては後者は劣っているように聞こえますが、時と場所と場面によってその価値は大きく変わることを知りました。
「今、必要なことは何か」
嫁のさつきから教えてもらった、当たり前で、大切なことです。
街並みと通り道
温泉街に饅頭は付き物ですね。ですが、どこでも出来立ての温泉饅頭はフカフカで美味しかったりするので、その場で食べるならば間違いのない名物だと思っています。どこかの甘栗のように、押し売りをする温泉地もありますからね。笑
雲のない青空に、饅頭屋の噴き出す湯気がとても印象に残っています。ただのひとつの作業でしかない湯気の行き場に視線を留める嫁と自分。たった数秒の時と煙の流れに、目と心が寄せられる。暇が贅沢と言われる所以でしょうか。流れるものがこの目にどう映るのか、かつての自分に問うてみたい気持ちに駆られました。
ただのバス停ですが、観光名所の名前が入るとどこかのブランド物のよう。ついカメラに収めてしまったのも、高価なものに釣られてしまう癖があるからでしょうか。だとすれば気を付けなければいけませんね。
どこを歩いても、自分たち夫婦ふたり以外ほとんどすれ違うことがない温泉街。商売を考えればとても痛手ですが、この時ばかりの正直な気持ちを言うならば、本当に贅沢な散策をさせて頂けたなと思っています。ひとつひとつ、何気ない民家、変哲のない小さな空地、小さな飾り物、自分たちが生まれる前からそこにあると思われる商店、そしてこの停留所。バスを使わない人にとっては目にも入らないものひとつに目を向け思いを馳せる。温泉とその街を作り上げているものを見て感じると、この温泉ってなんかいいな、と言葉に出来ない良さを感じたりしますから。
美人の泉
本来の目的地である共同浴場『美人の泉』。駐車場があるのでここまで車で来ても良かったのではないかと思うかもしれませんが、温泉街はゆっくり歩かなければ見過ごすものも多くあって。人によってはくだらないと目もくれないものに興味を引かれたりして、高速を飛ばして時間を有効利用するよりも、下道をのんびり走って何にもない田舎道や山道を一喜一憂しながら過ごす嫁との時間が好きなのと、同じ感覚なのかもしれません。
詳細と券売機
・名称 月岡温泉共同浴場「美人の泉」
・住所 新潟県新発田市月岡403-8
・TEL 0254-32-1365
・営業時間 10:00~21:30
・定休日 毎週火曜日(祝日の場合は翌日)
・料金 大人550円 小人330円
・泉質 含硫黄‐ナトリウム塩化物泉
・特徴 エメラルドグリーンの源泉かけ流し
・公式サイト
新潟県観光協会 にいがた観光ナビ より
niigata-kankou.or.jp
・アクセスマップ
出典:Googleマップ
貼り紙
はっきりと書かれています。載せてある通り、休憩室と脱衣所と内風呂のみ。忘れてはならないのが、「美人になれる温泉」のお湯があるということ。事実、それだけあれば十分だと思います。余計なものがないほうが、それだけに集中して楽しむことが出来ますから。
ただ、これだけ貼り紙が多いということは、お察しかと思いますが。館内は撮影禁止ヵ所が多く、脱衣所や浴槽等カメラに収めることが出来ません。それだけマナーが悪い方が多い方がいらっしゃったのか、こだわりなのかはわかりませんが、今回はこの良質な温泉をしっかり目に焼き付けておきたいと思いました。
お湯に浸かる(写真なし)
館内やお湯を見たい方は、先ほどの公式サイト(https://niigata-kankou.or.jp/spot/11321)をご覧になって頂けると良いかと思います。
受付を済ませ、男女浴室が離れているため嫁と時間を決め別々の脱衣所へ。鍵付きのコインロッカーのあるそこそこ広い脱衣所。ここにも貼り紙が多く見られました。タオルを持ちいざ浴室へ。
浴室内は10基ほどシャワー付きのカラン(洗い場)があり、10人程入れる浴槽があります。シャワーもカランからも源泉が出るようで、何やらここにも注意書きが…。どんな金属を使用しても錆びてしまうと…。硫黄の濃い温泉を、金属製のシャワーやカランで提供しているのはあまり目にしたことはありませんので、確かに錆びるだろうなと思います。塩ビパイプ、もしくは木の樋、石造りから掛け流している共同浴場ばかりでしたから。どうしてもこの美人になれる温泉を洗い場に使いたかった館主の気持ち、その心意気はとても嬉しく感じました。もちろん、石鹸など使わなくともスベスベになるのを実感できます。硫黄の匂いが強いかと思っていましたが…それは浴槽に入ってから確かめたいと思っています。
浴槽のお湯は透き通ったエメラルドグリーン。入浴剤を入れたかのような、本当に綺麗な色をしています。不思議なのが、源泉口から水がめにドバドバと注がれている中身。乳白色をしているんです。それが、水がめから溢れて浴槽へ注がれると、なぜかエメラルドグリーンへと姿を変えるんです。お湯に浸かりながら、ずーっと源泉と浴槽のお湯を眺めながら考えていましたが、結局は、「奥が深いな」という結論に至ります。
匂いは硫黄…よりも先にフルーティーな、柑橘系の香りが鼻につきます。何が一番近いか、個人的には青りんごかなと。そのくらい爽やかな香りが特徴的でした。足湯のような油膜や石油臭はしなかった。していたら真っ先に気が付くはずですから。何度も言うようですが、不思議だなと。驚きとワクワクな時間を過ごさせて頂きました。
湯上がりは、やっぱり硫黄泉。顔も体もスベスベです。また塩化物泉と言うだけあって、ポカポカと保温効果もありますが、嫌な火照り感というよりも後を引かないさっぱり感がありました。泉質もそうですが、この色の変化を写真に収められないことが残念でした。
まとめ
旅をしていると、時に大雨に見舞われる時もあります。ですが、新潟の地を訪れる日はなぜかピーカンに晴れ渡る日が多いことも確かです。だからこそ、日本海からの綺麗な夕陽のイメージが強く残っています。海沿いを風を感じながら走りたい気持ちに駆られます。そういう縁なのでしょうか。はたまた、ふたりとも晴れ男、晴れ女だからでしょうか?
本来の目的地と敢えて言ったのは、ここに来てから目的地だと思う場所が増えたからです。ついでだと思っていた足湯が想像以上だったこと。温泉街が感慨深かったこと。そして、このあとに行く飲泉所のインパクトが強すぎたこと。それなのに、まったくこの温泉地について知らなかった自分たちがいたこと。全国的に知られていない、けれどものすごく興味深く、とても良質で、期待以上のポテンシャルを秘めた温泉地が沢山あるということ。それに気付けたことは、少なくとも自分という人間一人の好奇心と生きがいを見出してくれました。その意味でも、月岡という温泉には感謝しなければなりません。
何よりも、まず、
そのきっかけを、いつも気付かさせてくれて、いつも一番近くで支えてくれている嫁のさつきに感謝しなければいけませんね。