ふづきです。
何気なくベランダへ出ると、
漆黒の空からサーサーと降り注ぐ雨粒。
いつの間にやら時間は通り過ぎ、
曇天の中にまるで星の煌めきのような
窓の灯りが点いては消える。
この程度の明るさでは
蒸し暑さは役に立たず、むしろ涼しげに。
この瞬間だけは、
ここがどこで、今がいつなのか、
知らなくても良い気がしている。
一歩、後ろへ下がれば、
いつもの日常が開け、止まった針が動き出す。
さっきと今が同じ時間の中だったのか。
考えることすら忘れてしまう世の中で、
その眼に見た輝きが何だったのか、
意味を見つけに思いに耽る。
はじめに
<2021年4月>
愛知へ行く用事が出来、その足で立ち寄らせて頂いた新城市にある湯谷温泉郷。
感染対策に留意し、向かうこととします。
愛知と言えば?
トヨタ自動車や味噌カツ、名古屋コーチンなどを思い浮かべてしまいますが、実のところ温泉はあまり知りませんでした。(あまりと言うか…ほぼ…。)調べて見ると、三谷温泉や吉良温泉など、青い空と海を望める温泉地が名を連ねていますが、知らなかっただけで温泉が沢山湧いている土地柄だったことに気が付きます。どちらかと言うと、お隣の岐阜県を好物として巡っていた経緯があったので、これを機に今後の温泉めぐり候補として、愛知県が仲間入りするきっかけになるかもしれません。
開湯約1300年もの歴史ある湯谷温泉郷。
渓谷が素晴らしいと聞きますが…。
今もなお湧き出でるお湯は、どんな姿を見せてくれるのでしょうか。
湯谷温泉郷

山沿いの道を走り、住宅が少なくなってきた頃、公園のような駐車場と共に歓迎の文字が飛び込んでくる。
愛知県=名古屋との認識が根強くあるため、
都会の喧騒を忘れるような新緑の香りに、何だか違和感を感じてしまう。
温泉スタンド

湯谷温泉郷の看板を見かけてすぐ左手に、駐車場と温泉スタンドらしき建物がある。温泉を持ち帰る予定はないが、珍しかったので立ち寄っていくことに。


・源泉名 湯谷温泉7号泉
・泉質 ナトリウム・カルシウムー塩化物泉
(低張性中性温泉)
・温度 源泉34.8℃(浴用42.0℃)
・その他 加水なし、加温あり、循環ろ過なし、消毒なし
驚くべき事実が…
100L→100円なんです。
他でも温泉スタンドを見かけたことがあるのですが、破格な気がします。と言うか、100Lを持って帰るとして、どこに保管して、どうやって利用するのでしょうか?民宿を開けそうな気になってきますね。量と価格からして、湯量が豊富だと言うことが分かります。とても新鮮な温泉に入れそうですね♪
足湯



44℃と表記されている湯口のホースからは、肉眼ではほぼ透明なお湯が注がれているのものの、足湯の浴槽内は何色と表現するべきか…。泥濁りのような、緑がかった濁り湯と言うか、濃厚そうな温泉へと姿を変えています。
足を入れると、刺すような強い刺激はなく、お湯の弾力を感じられると言うか、じんわりと包むように温めてくれている感じがあります。塩化物泉と言うこともあり、纏う保温力のおかげで湯上がりは靴下を履いたように赤く染め上げてくれます。屋外だからか、さほど目立った匂いは感じられず、塩化物泉特有の塩生臭さを時折感じる程度。表現は不快そうですが、実際はほんのりと心地良い香りです♪
この温泉を100円で持って帰れると思うと、かなり贅沢な気がします。本当に100円で良いのでしょうか?笑
散策

温泉スタンド、足湯と満喫し温泉街へ向かおうと足を運んだ矢先。道を挟んだ向かい側に誘惑する看板が…。
これは、なかなか温泉街へ入れさせないという作戦ですね。望むところです。


鳳来薬師如来石像と、国指定天然記念物の馬背岩だけでなく、浮石橋でのビューポイントとな。
いきなり見所満載で困りますね…なかなか温泉に入らせてもらえそうにありません。
鳳来薬師如来石像


まず、進んだ目の前にそびえ立つ?…座っているのは、鳳来薬師如来石像。説明は先ほどの写真(看板)にある為、割愛させて頂きます。眺めが良いところに腰掛けていらっしゃるのに、背を向けてしまっているのは勿体ない気がしますが。大仏様をそのまま小さくしたような姿かたちをされています。詳しくは存じ上げませんが、なぜか有難みを感じてしまうのは日本人だからでしょうか?お賽銭箱まで用意されています。厄除け、交通安全ということで、両手を合わせてお願いしておきました。
さて、気になるのは後ろ姿。
・・・どう見ても、電池パックですよね?
・・・急に動き出したりしませんよね?
・・・決して開けてはいけない気がします。
世の中には
知らなかった方が良いことが沢山ありますからね…。
馬背岩



国指定天然記念物と言われたら、一度は目にしておきたい代物です。ですが、約80mの道としては不安を煽る雰囲気で、蛇がいたらどうしようとか本気で考えてしまう時間のある距離です。ものの5分程進み、階段を下るとそれはありました。


辿り着いたものの、石板は風化しすぎて良く読めない。ここが馬背岩だと言うことが分かる程度。嫁のさつきと辺りを探していると、それらしきものを目撃する。

さつき「あれじゃない?」
ふづき「え?・・・あれかな?」
説明板と照らし合わせると、
確かにあれが馬背岩だということが分かる。
拡大して良く見ないと分かりづらいが、馬の背中のような毛が、岩が隆起している様子がそれに見えなくもない。自然にそれが出来たことを考えると、この辺りの地形は複雑に変化しながら今現在に至っていると言うことになる。他にあまり見かけないレアな天然記念物ですね。
浮石橋のビューポイント

先ほど来た道を戻り、浮石橋の方向へ進む。
とても急な階段を下ると謎の鏡を見つける。
何を映しているのだろうか?
その先を見ても何も見当たらず。
そもそも、その鏡を覗き込むことすら出来ない高さ。
これが、あの、真実を映し出すと言われるラー…。


言葉を失うような、素晴らしいとしか言いようがないような、口が半開きになりながら肉眼に収め、カメラのシャッターを切る。何枚撮っても同じだが、何枚も撮ってしまうほどの魅力がある。メインの渓谷に、温泉街がひっそりとアクセントを加え、その川面には逆さのそれらを映し出すという逸品。
新緑でこの魅力ならば、紅葉は魔力を持って心を奪いに来ますね。いやー、すでに満足感が半端ないですね!
温泉街を歩く

様々な誘惑を乗り越え、
やっと、温泉街へと足を向け始める。
線路沿いの緩い坂道を下ると、古き良き時代を彷彿とさせるうどん・そば屋さん。この道を歩くだけでその価値を感じてしまいそうですね。



決して鉄ではないが、旅先での電車には何だか興味をそそられる。同じ鉄で出来た車両には違いないものの、微妙に違う形や配色、その魅力は何となく分かる気がする。
そこで見る意義がある。
のかもしれませんね。
嫁のさつきが手を振ると、それに気づいた車掌さんが「ファン!」と警笛を鳴らし応えてくれたことを、とても嬉しそうに自分に話してきたことが印象的でした。子供には鳴らしてくれても、大人に鳴らしてくれる優しい車掌さんはなかなかいないそう。

簡易的な駅舎のある湯谷温泉駅を通り越し。


色々と説明書きや歴史を感じさせるオブジェ、湯谷温泉街を見守るお地蔵様を横目に歩きます。まるで貸切のような温泉街をふたりきり。寂しさを感じつつも、贅沢さも感じてしまう。複雑な気持ちですね。
湯谷観光ホテル 泉山閣

今回のメインはこちら。
嫁のさつきがリサーチしてくれた『泉山閣』での日帰り入浴です。なぜこちらかと言うと、歴史や風情を感じる佇まい、泉質もさながら、その温泉を貸切(家族風呂)出来るという点。しかしながら、連絡して伺うと今回は貸切入浴はやっていないとのことで、男女別の大浴場と露天風呂を満喫したいと思っています。
フロントと内観

無理につくろうことなく、リラックスして過ごす
何も構えず懐かしい気持ちになっていただける
そんな空間づくりにこだわった
温泉宿「泉山閣-せんざんかく-」


館内の色や雰囲気は、今時と呼ぶには物足りないものの、刺激というよりはフィット感というか、何を大事に大切にするべきかに重きを置いているというか…。いらっしゃいませと言うよりお帰りなさいが合っていると言うような、それらがこのホテルの「こだわり」としてカタチになっているのかもしれませんね。
日帰り入浴、温泉成分表等の詳細


・名称 湯谷観光ホテル 泉山閣
・所在地 愛知県新城市豊岡滝上26
・営業時間 11:00~14:00
・料金 大人1000円/小人600円
・定休日 不定休
・電話 0536-32-1535
・浴槽 男女別内湯・露天風呂、貸切露天風呂×3
・源泉名 湯谷温泉7号泉
・泉質 ナトリウム・カルシウムー塩化物泉
(低張性中性温泉)
・温度 源泉34.8℃(浴用42.0℃)
・pH 8.1
・その他 加水なし、加温あり、循環ろ過あり、消毒あり
源泉そのものは、温泉スタンドや足湯で使用しているものと同じ(湯谷温泉7号泉)。何が違うかと言うと、下線を引いてある部分。衛生管理のため、循環ろ過装置を使用し、塩素系薬剤にて消毒をされているとのこと。湯量が少ない場合や湯温が低い場合、循環ろ過装置を使用している場合などには、レジオネラ菌などの菌が繁殖しやすい環境下にある為、消毒せざるを得ないのでしょう。
言い換えると、
そのままでは入ることの出来ないお湯に、
安心して入らせて貰える。
そう考えると、逆に嬉しくなったりしますよね♪
ほのくにの湯(大浴場・露天風呂)

日替わりで「ほのくにの湯」と「しんのこの湯」は男女入替になるよう。入浴後の嫁のさつきに確認するも、造りや雰囲気はほとんど変わりはないようですが、実際に両方入ることが出来ると違いの良さが分かるかもしれませんね。
脱衣所


館内と同様、落ち着きのある雰囲気を醸し出している。アメニティーは充実しているが、日帰りにて気を付けなければならないのが貴重品ロッカーがないこと。気になっていては安心して入ることが出来ないので、貴重品がある場合はフロントにて預かって頂けるのでお願いしたいところ。
洗い場

この洗い場の他にも数か所ある為、ゆっくりと身体を洗うことが出来そう。個人的に炭の石鹸があったことが嬉しいポイント♪(肌が意外と敏感なもので…)車中泊や湯めぐり旅をしていると、シャンプー等のアメニティーのない公衆浴場があったりするので、自前でなくとも用意されていると助かったりします。
内湯と露天風呂


お湯の出ている隙間周辺は、鉄分が多いのか赤茶色に染まっている。注がれているお湯自体は透明に近い。浴槽を眺めると、足湯で見たものと同様、土色と言うか緑がかった濁り湯のよう。洗い場と並んで横長に広い内湯は、10人入っても余裕がありそうな広さ。お湯がドバドバと注がれているため、湯口から遠くても42℃程ありそうな湯温を保っている。


湯船が狭いからか、内湯よりも濃い印象を受ける。
溢れ出た先々が、赤茶色に染められた絨毯のようで。お湯の成分の濃さを魅せ付けられる。本当に循環ろ過しているのだろうかと。成分表を見るまでは全く気にもならない、塩素臭や入ってみてのお湯の濃さ。源泉かけ流しじゃなきゃ…と自慢げに語っていた若かりし頃が懐かしく思えます。こんな濃厚な、むしろ塩気やいわゆる温泉臭(硫化水素臭)を感じる程の姿に触れると、源泉かけ流しではなくとも、それが好きな人たちでも満足させられる温泉があるんだなと、素直にそう思させてくれそうな。
優劣を付けるわけではありませんが、良い温泉って世の中には沢山あるんだなと、入る温泉が増えれば増えるほど、そう思わされます。
温泉は塩化物泉でもあるので、湯上りはしっとり。
長湯は禁物な保温効果の高い良い湯でした♪
しんのこの湯(大浴場・露天風呂)




今回はこちらは女湯となっている。
浴室からの眺めや、洗い場、内湯と露天風呂の位置などはほとんど同じよう。見た目の違いと言えば、浴槽の段差位だろうか。実際に入り比べるとその差を体感できるのだろうが、それはまたのお楽しみに…。
おわりに

ビュースポットから観たそれは緑がかった青い色をしていたが、内湯や露天から観たそれはまるで黄金色に輝く川。ちなみに、各浴室から出る排湯はすべて川へと掛け流されているため、もしかするとそれと相まって黄金色へと姿を変えているのかもしれない。これもまた、自然の織り成す芸術なのだろう。温泉を楽しむと同時に、輝く川の流れとせせらぎと…、木樋から流れ落ちる湯音に耳を傾け、時折聞こえる鳥のさえずりが心を癒すひとときとなる。
今の世の、余裕のない隙間に必要なもの。
時計の針の音が聞こえないほどの、
湯と華を身体に纏い、
傾けるのは滴る音とせせらぎのみ。
目に映るそれは、
疑問を抱くことすら止めてしまうほどの、
水面に輝く黄金色。
今は、前に一歩進むことより、
寄り道することも必要なのかもしれません。
