ふづきです。
容赦なく注ぐ夏の陽射しは、その時には終わりなく続く時間に感じるもの。
自分たちの生活を邪魔することなく、ひっそりと、けれど欠かせないものとして支えてくれている家電たちは、人と同じように四季に応じて緩急をつけ、休む間もなく活躍してくれている。突然迎えるその時が、暑さ堪えるこの時期だったりするのは、機械であるにも関わらず命を宿しているかのように日常を過ごしているからなのかもしれない。10年選手とも呼ばれる所以が、彼らに愛着を抱き、別れを惜しむ瞬間があるからなのだろうか。より正確に、コツコツと積み上げた実績と信頼が、もはや自分よりもあるのだろうと、部屋の模様替えをしながら…、額から零れ落ちる汗と共に再び身体へと流れ込むその味。掃除や自己管理までできる機能を持つ彼らに、果たして勝るものはあるのか。
いつしか、夕暮れ時の風が涼しさを匂わせる頃。
虫の声が夏のそれと変わり始めていることに気付き、10年足らずとも懸命に生きるその姿は、誰もの心に染み付いている音として、残りの暑さをなぜだか名残惜しくも感じさせる。環境は変わっても、季節として感じたいひとつの時間として。
はじめに
2020年8月初旬
世界自然遺産である北海道知床の地には、旅人のみならず誰もが目を見張るものが多くあります。そのうちのひとつに『ウトロ温泉』と言うものが。名前を聞いただけではパッとせず、嫁のさつきに「ここに行こう!」と誘われても、「行ってみようか」と、来たからにはとりあえずという感覚。
しかし、
最果ての地には、やはり期待を裏切らない魅力があることを再確認しました。
ちなみに『ウトロ』とは…
ウトロは、北海道オホーツク総合振興局斜里郡斜里町にある地名である。漢字表記は宇登呂。語源はアイヌ語の「ウトゥルチクシ (Uturu-ci-kus-i) 」であり、「その間を-我々が-通る-所」という意味である。
アイヌの人たちは、地名やモノに「ありのままの意味」を込めていると聞きます。
きっと、この地を通り、もしかしたらこの温泉に浸かり、アイヌ語で『神の水』と称される『カムイワッカ』へ向かったのかもしれないと想像するだけで、この興奮は高まるばかりです。
しれとこ村へ
「シレトコ ヴィレッジ」と書かれたロッジ風な建物。ここは、宿泊だけでなく、日帰り入浴(温泉)も営業されています。ここを支点に数日滞在したかったのですが、見所満載にて時間が足りなくなってしまい、1泊だけさせて頂きました。
先ほどの受付のある本館とは別に、道を挟んだ向かいにも宿泊棟があります。今回はこちらを利用させて頂きましたが、居室の他、ランドリーや給湯、洗面室があるため、特に不便することはありませんでした。冷房がなく扇風機のみのため、稀に見る真夏日にはちょっと涼しさを求めたくなるかと思います。冬の極寒に比べたら、大した悩みではないのでしょう。
本館で受付を済ませます。
自然の色で調和された、落ち着きのある内観。家の玄関もこのくらい広かったら、色んな意味で開放的になれるのかなと想像してみたくなりました。ウトロ温泉郷の高台に位置し、エゾシカやキタキツネも遊びに来るとのことで、お会い出来たら嬉しいですね。ちなみに、大浴場は『熊の湯』ということで、自然感…いや、知床感満載ですね♪
地図はこちら↓
※出典:Googleマップ より
温泉はもちろん
大浴場、貸切家族風呂とも、源泉かけ流しとなっています。
詳細はこちら↓
・源泉名 しれとこ温泉(別名 ウトロ温泉)
・泉質 ナトリウムー塩化物・炭酸水素塩温泉(等張性中性高温泉)
・泉温 61.2℃
・pH 6.7
・飲用 不可
・効能 切り傷、抹消循環障害、うつ状態、皮膚乾燥症等
・日帰り 可(男女別大浴場のみ)、大人600円、子供400円、幼児300円
・貸切風呂(宿泊者のみ)40分1080円
・補足 大浴場、貸切家族風呂とも、同じ源泉を使用。
源泉かけ流しと聞くと、それだけでワクワクしてしまいます!どんな色で、どんな味で、どんな雰囲気の温泉なのか。この紙一枚から想像するだけでも楽しめます。
さっそく大浴場
まずは、ひとっ風呂浴びてから!話はそれからですね♪
緑、白、茶色と、目にも心にも優しい廊下を抜けるとそれはありました。
この光景が日常になりつつあります。経営と予防の距離感も、難しい課題になりそうですね。
大きな浴槽がひとつ、と思いきや、真ん中で仕切られています。見る限り、源泉の出ている左側が熱湯で、右側がぬる湯ということでしょう。洗い場がとても広々としていて、真ん中にイスと桶が置かれているスタンス。意外と見かけない感じなので、面白いなと思いました。洗い場は両側に10基ほどあり、温度設定の出来ないタイプのカランとシャワー。リンスインシャンプーとボディーソープが備え付けられています。全体的に黄色寄りの茶色の色合いで、マットな、温かみのある印象を受けました。
後に気付きましたが、右側中ほどにある扉の横に、唯一水の出る水道がありました。火照った身体を冷やすには、浴室内は暑く時間を置いても冷えないため、この水道を使うか、脱衣所へ涼みに行くか、の2択になるかと思います。
旅の汗を洗い流し、まずは源泉を拝みに行きます。やはり、右側の浴槽よりも源泉付近の方が温度は高め。というより、どちらも熱め。ぬる湯が体感42~3℃、熱湯が体感44~5℃。何よりも空気の循環が少ないため、浴槽から出ている部分も冷めないためにより熱く感じます。
見てわかるように、湯口から出る時には透明なのに、湯船に溜まると透明度のなくなる、濃いお湯質です。いわゆる温泉臭の硫黄の匂いはせず、見た目の割には強い香りはなく、ほんのりまろやかな何とも言えない温かさを鼻の奥で感じます。源泉噴出口から流れ出るお湯に触れると、とても熱く、その手を舐めると、色的に鉄分が強く出るかと思えば、角のない塩味が主張します。ミネラル分の多い美味しい塩を舐めた時のような、甘さを感じる塩加減。言葉にすると、本当に難しいくらい、良い意味で濃いのに濃さを感じさせない。嫁の作る味噌汁のようないい塩梅。何度も舐めてしまう、湯口にあんなに堆積するくらい濃いはずなのに…、温泉ってホント奥が深いですね。
湯触りは塩化物泉でありながらもキシキシせず。湯の中で手足を動かすときの抵抗は強いものの、柔らかさも感じる。とても熱いけれど、それでも入っていたくなる。そんな感想を覚える温泉でした。
水道に気付かなかったために、イスに腰かけたっぷりと汗を流す。この入っていない時間も、温泉の空気を感じながらの時間も案外好きなんです。しばらく休み、また浸かる。至福のひとときです。
ウカラノユを嗜む
「ウカラ」とはアイヌ語で「家族」という意味だそう。
脱衣所の扉を開けると、洗い場1基と、小さめの檜の浴槽が。排水口の色合いから、この温泉の魅力を感じたりします。源泉は大浴場と同じため、お湯に対しての感想は割愛します。
コックを捻るタイプではなく、昔ながらの水道の蛇口を捻るタイプ。その周りには、びっしりとこびり付く湯の花の堆積物。この蛇口、いくらでも眺めていられます♪綺麗ですよね!?人工物と自然と時の流れが織り成す芸術です。堪らないです。いくら捻っても、こびり付いたものが邪魔をして、それ以上強くならないところがポイント高いです。
まさかの、貸切家族風呂には露天風呂が付いているんです!
扉を開けると…暗闇の中に…
写真では明るさを調整していますが、実際はもっと暗く、独りだと心細くなるような貸切露天風呂です。暗闇からエゾシカやキタキツネが出てこられても困るような雰囲気ですが、ましてや熊が来たらどうしようと、不安に駆られたのも事実です。汗
昼間であれば、自然遺産である風景を望みながらの貸切露天風呂となりそうなので、夜よりも昼間をオススメします!知床の夏の夜は涼しいので、熱いお湯でも気持ち良く浸かることが出来ました。
ちなみに、湯船に浸かりながらの眺めは…
こんなのが突然現れたら、びっくりしますよね?
明るい時間にお会いしたいものです。
まとめ
しれとこ村のしれとこ温泉。別名ウトロ温泉。
世界自然遺産というだけあって、環境が維持・管理され、豊かな自然だけでなく珍しい生き物たちも多く暮らしています。エゾシカやキタキツネに会えなかったことは残念でしたが、安心して暮らせる環境があるということに驚くのではなく、本来あるべき姿なのだと感じなければいけないのかなと、考えさせられたのも事実です。
ウトロという、初めて聞く名前の温泉は、何とも一言で言い表すのが難しいもので、透明なのに濃い。濃いのに味や匂いは強くないという、強弱と緩急のバランスが上手く取れていて、極寒の土地柄に合うように湧き出る熱いお湯は、あるべくしてあるんだなと。
まだまだ、自分は温泉を知らないんだなと。
そう感じさせるとともに、温泉のもうひとつの魅力である奥深さを垣間見た気がしました。
夏の夜空でも、星が綺麗に輝けるのは、
ありのままが今でもそこにあるから。
自分たちが通るところには、どんな道ができるのだろうと。
ウトロという言葉と土地とお湯を感じて、果てしない課題と未来を想像してみたくなりました。
しれとこ村 公式サイトはこちらから↓
https://www.shiretoko-mura.jp/