ふづきです。
昨日感じた風と今日吹く風が、
何だか違うと肌が言う。
温度計の示す数字は変わりないのに、
少しばかり気持ちの上で
「楽」を覚える今日この頃。
季節がひとつ、
またひとつと進むように、
自分の、
自分たちの向かう足先は、
確かな前へと進んでいるのだろうか。
最近見慣れなかった澄んだ空を見ると、
あの時の感情が込み上げ、
今と昔を無意識に比較する自分。
良いとは?悪いとは…?
きっと、
「今」があるから
「昔」を思い返すことが出来る。
自分たちの、
確かな足跡として。
はじめに
<2021年 7月>
「白黒つける」
という言葉がありますが…、
つけなくても答えは出ています。
いきなり何を言っているの?と思われそうですが、白と黒どちらも良いんです♪
もっと言うと、白や黒以外も良さげです。
場所は栃木県の那須塩原市にある『大出館』。
硫黄香り、飲泉可能。尚且つ乳白色の濃厚なお湯かと思いきや、それは天候や温度によって姿(色)を変える『五色の湯』と。タオルを真っ黒に染め上げる。日本唯一とも言われる、黒い湯花と墨汁のようなお湯の『墨の湯』。源泉は異なるものの、泉質表記は同じ(含硫黄-ナトリウム‐塩化物・炭酸水素塩温泉)という。
そんな不思議な温泉の湧く『大出館』での日帰り入浴は、驚きと癒しのひとときでした。
大出館

この提灯がぶら下がっていると、やっぱりなと感じてしまう。辿り着いた時点で勝利を確信したような、少なくとも自分には水戸黄門の印籠のような迫力と印象を感じさせるものでもあります。
また、いつもながら、そのような温泉宿は人里離れた、「この道で合ってる?」と不安を煽るような場所に位置していることが多いですね。
近づくにつれ、鼻に香る温泉臭(硫黄臭)が期待を高めてくれました。
詳細
・名称 塩原温泉 大出館
・所在地 栃木県那須塩原市湯元塩原102
・電話 0287-32-2438
・営業時間 10:00~16:00(受付は14:00迄)
・料金 大人700円
・定休日 不定休
・浴槽 混浴内湯・露天、女性内湯・露天、家族風呂
※男湯はすべて混浴、墨の湯は14:00~15:00の間女性専用。
・公式HP https://www.ooidekan.com/
・地図
※出典:Googleマップ
温泉分析書


・源泉名 御所の湯(五色の湯)と五色の湯No.3(墨の湯)
・泉質 含硫黄-ナトリウム‐塩化物・炭酸水素塩温泉
※五色の湯、墨の湯とも同じ泉質表記(中性低張性高温泉)
・温度 五色の湯51.1℃、墨の湯50.3℃
・pH 五色の湯6.6、墨の湯6.2
・その他 源泉かけ流し
内観

車に詳しくない人でも分かるほどの、普段見かけない毛皮の背もたれに、横には絶対停めたくない位の高級車の持ち主であろうオジサマが、館主に見送られ上機嫌に帰路へと向かう姿を目の当たりにし、ああゆう方でもココのお湯目当てに来られるんだなと。一見場違いに見られるその姿も、お湯に浸かる姿は誰もが一緒。立場や経済力等、比べればキリがないことだけれど、温泉と言うカテゴリーで括ってしまえば、共感や楽しむと言うワードで優劣なく居られるんだろうなと。良い悪いではない何か、その満足げな笑顔が、他人で無関係であるにもかかわらず、嬉しさとなって伝わってくるのは何故だろう。


その余韻を感じながら、
ちょっとした観光案内所のような受付で支払いを済ませ、ゆっくりと見渡してみる。その余所行きな構えを除いては、アナログ時代を彷彿させるような空気を漂わせ、初めてなのに懐かしさや安堵感を覚える。
各々が、どんな思いでココに来て、何を考えながら外を眺めていたりするのだろうと。お湯に浸かる前と、浸かった後と、表情のほころびを館主は明日への糧へとしているのかもしれないなどと、勝手な想像を膨らませている自分がいる。悪趣味なのかもしれない。
貸切風呂(五色の湯)

初めに伝えておきたいココの一番の魅力は、入浴料(大人700円)だけで、貸切家族風呂も、混浴の内湯も露天風呂も、墨の湯もすべて時間が許す限り入り放題ということ。これって、スゴクナイデスカ?繁忙期は停め切らない位混むらしいです。そりゃ、ずっと居たくなりますよね。でも、どんなお湯か、知らないと、見てみないとまた来たいかなんてわかりませんからね。
脱衣所


民宿などで良く見かける札を裏返し、内鍵を掛けて入る。ただそれだけのことが、日常と近い距離感で、割と嫌いじゃない。飾らないって、自分は素敵なことだと思っています。
浴室

脱衣所から扉を開けると、そこはクリームのような濃厚な乳白色のお湯と、たった一つの浴槽のみ。こんなお湯を魅せられたら、入る前から満足してしまいそうになる。濃厚な色の割には、まろやかな硫黄の香りが鼻を包み込む。

身体をしっかり洗いたい場合は、他を利用した方が良いかもしれない。温泉で掛け湯と洗身を済ませる。自分(ふづき)は、どんな温泉(種類によっては洗髪に適さない泉質もある)であっても、頭から足の先まで温泉で満たしたい派なので、跳ねないよう膝を着きながらお湯を被る。頭にお湯を被ることで、頭の血管を拡張させ逆上せ防止につながると、かつて草津温泉の主から教わったことを今もなお続けている。結構一途(頑固とも言う)なのかもしれない。

湯口周辺は硫黄成分だろうか、濃さを物語っている。けれど、その湯口からドボドボと流れ出るお湯は、見る限り透明にしか見えない。注がれた浴槽は、底が見えないほどの濃厚な乳白色。
不思議ですよね。これが、更に、日によっては黄金色や茶褐色、無色などと色を変えるとなると、何度も足を運ばなければと楽しみが尽きないですね。
お湯の温度は体感少し熱めの43~44℃程。浴槽内の透明度は限りなく少なく、手を沈めると肌の色すら見えなくなる。色もさながら、乳白色の湯花が無数に舞い、身体を浸すと濃厚なクリームに包まれているかのような、滑らかな湯触りを体感できる。

コップがあるということは、そういうことです。
いただきます。
口に含むと、硫黄独特のまろやかさの直後に強いエグ味が追いかけて来る。しばらくその余韻が舌を独占するわけだが、けれど、何故だか嫌な感じはしない。喉が渇いたからとゴクゴク飲もうとは思わないが、注意書きからも一度に大量に飲むとお腹を下すことがあるため気を付けたいところ。嫁のさつきは飲泉が苦手なため、ひとりで浴槽に腰掛けながら、窓からの靄の掛かった新緑を眺めながら、嗜む温泉もまた一入である。身体の中から温泉を感じることが出来ることは、本当に贅沢なことだと思っています。
ちなみに、
飲泉で思い出すのは、自称日本一まずい温泉ですね。
www.fuzuki-satuki.com
墨の湯(混浴、時間によって女性専用)

本当は、ここを写真に収めておきたかった。と言うのが一番の心残りかもしれません。なんせ、墨の湯を目当てに遠方から来られる方も多いようで、常に賑わっていると言っても過言ではありません。驚くことに、撮影可能と説明書きがありますが、さすがに多勢を巻き込むことには気が引けます。
ということで、一番の目玉を、言葉のみでお伝えできればと思います。
墨の湯の暖簾を潜ると、男女同室の木造の脱衣所と先ほどのような網カゴが用意されています。貴重品は持ち込まない方が良いと思います。今回は男性が多く入浴されているようなので、嫁のさつきは断念し、自分(ふづき)のみ入浴させて頂きました。タオル巻きや湯あみ着はNGということです。
脱衣所から浴室へ扉を開けると、手前側には6人程入れる五色の湯(先ほどの貸切風呂と同様のお湯)があり、同じく乳白色で体感44度程の熱めの湯加減。その奥に、同じくらいの大きさの浴槽が…。
まさに、白と黒!
真っ黒と言うよりは、墨汁の色。だから『墨の湯』なのでしょう。
乳白色の五色の湯からは硫黄の香りがするものの、墨の湯からは…硫黄のイの字も出て来ないような、全く別物としか言いようがないような、温泉特有の硫化水素臭がほのかに鼻に香る程度。温泉湯口付近には、灰色の湯花が蓄積していて、薄墨色のお湯を縦横無尽に砂鉄のような粉が舞っている。五色の湯とは対照的に湯温が低く、体感38℃~40℃程。長湯が出来、混浴であるがゆえに、ずっと何かを待っているかのような人も見受けられるのが、少し残念なところ。
それを差し引いても、
硫黄泉でこれほど墨のように黒い温泉は見たことなかったですし、消しゴムのかすのような黒い湯花は見たことがあっても、砂鉄のような粉の湯花は初めて目にしました。鹿児島県の栗野岳温泉『南州館』で出逢った酸性で鉄分の多い灰色の、これもまた墨汁のような温泉がありましたが、それとはまた違った黒さ。別物と言って良いほどです。是非とも嫁のさつきにも体感して欲しかった。お湯のレアさに興奮しすぎて、浸かっている間の頭の中が「何これ?スゴイ!」の文字だけがグルグル回ってた位でしたから。
もう一度、リベンジをして、出来るなら今度は宿泊でゆっくりと『墨の湯』を夫婦ふたりで堪能したいと思っています。日帰りではもったいないと感じてしまうほどの、絶品級の珍しい温泉でした。
おわりに

白黒つけるには、甲乙つけがたい。
クリームのような濃厚な乳白色の五色の湯と、
まさに墨色、砂鉄のような湯花舞う墨の湯。
温泉分析書の表記では同様の泉質となるものの、見た目にも体感にも、嗅覚にも感じる全くの別物感。比べるにも比較の対象がないくらい、各々の良さがあって、白と黒という色的に対照的な立場にありながら、成分的には共通する部分が多いという不思議な錯覚を覚える温泉。細かい数値を見比べれば、確かな差異はあるのかもしれない。けれど、これは「スゴイ」という言葉しか出て来ないほど、素晴らしかった。
何がと聞かれれば、
ポツンと一軒家のようなロケーションに、700円で貸切風呂もすべての温泉が入り放題というコスパの良さ、濃厚な乳白色のみならず、天候によって変わる『五色の湯』と、日本唯一とも言われる黒い温泉『墨の湯』を持つなんて、まさに鬼に金棒。圧巻でした。